本来、健康な奥歯は左右4本ずつの計8本で体重もしくは体重以上の力を支えています。また、前歯は頭蓋骨より顎関節と筋肉で吊られているだけの下顎の運動をガイドすることで、乱暴な噛み合わせにならない様コントロールする役割が期待されます。歯を失うと、残っている歯に失った歯の負担がかかり、また、残っている歯はあいている空隙を利用し楽な方向に移動していきます。これらの生理的機能は歯の噛み合わせではなく神経筋機能によってコントロールされており、人によって咬合力や噛み癖、偏咀嚼、食べ物の嗜好や態癖など異なります。教科書に従った治療方針では、抜歯適応となった時に、患者様が最もその判断に迷う分類はClass4、いわゆるグレーゾーンだと思います。そこで、時間軸も含めた欠損歯列の病態を診査し、原因を探り、また患者様の健康状態、食生活、社会生活、価値観、経済力、の各変化を考慮して、それぞれのオプションのリスクとベネフィットを考え、一人一人の患者様に対して適正な診断、治療計画を立案して制度の高い欠損補綴を行うことで、歯列弓の保全を図り補綴治療の目標達成を目指します。
欠損歯列の拡大制御として、
- インプラント補綴
- ブリッジ(失った歯の前後の歯を支えにした固定式の被せ物)
- 義歯(失った歯の前後の歯を支えにした着脱式の補綴装置)
の三種類があげられます。
咬合支持の条件が悪く欠損歯列が拡大していきやすいケースにおいて、今までのブリッジやデンチャーによる対応では急速に咬合崩壊へ進んでしまったケースも、インプラント補綴を使う事によって崩壊スピードを制御することが可能になっております。
インプラント治療が脚光を浴び、従来の義歯では得られない利益をもたらす反面、その危険性も義歯とは比較にならないぐらい大きいことが示されております。Pjeturssonらのインプラント合併症のシステマティックレビューによると、5年間のインプラント生存率は95.6%ですが、インプラント治療後全くトラブルがなかった患者は66.4%と示されております。その点、従来の補綴物は作り直しも容易で、基本に忠実に設計をすれば、それほど大きなトラブルに結びつきません。歯の保存を第一に考え、天然歯と欠損補綴が共存できる環境を整え、患者様が長期的に健康を維持できるよう努めて参ります。